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エスキューブ メールマガジン 2022年12月号

メルマガ12月号をお届けします。今月の知財基礎講座では「特許庁への情報提供(刊行物提出)」についてお伝えします。また、統一特許裁判所(UPC)準備委員会がUPC協定の発効予定日の延長を公表したことについてご紹介いたします。是非ニューストピックをご覧ください。

━ 知財担当者のためのメルマガ ━━━━━━━━━━━━━━━━

                         2022年12月号

━ コンテンツ ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

■知財基礎講座■
(11)特許庁への情報提供(刊行物提出)

■ニューストピックス■
●統一特許裁判所(UPC)準備委員会 UPC協定発効予定日の延期を公表
●第一三共 ADCめぐる特許紛争、米Seagen社が仲裁判断の取消を求め申立て
●小野薬品 スイス企業とがん免疫領域における抗体創製に関する契約を締結
●明治「R-1」「LG21」全国的な知名度があるとして例外的に商標登録が認められる
●日米欧製薬3団体 令和5年度改定で共同声明「特許期間中の新薬は対象から除外を」

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知財基礎講座
(11)特許庁への情報提供(刊行物提出)

【質 問】
 特許調査でライバルメーカーが行っている特許出願を発見しました。この特許出願で特許請求されている発明は当業界では従来から行なっていたことの延長線上にあるものなので、特許は成立しないのではないかと思います。
 ライバルメーカーの特許出願に対して特許成立することを阻止する目的で何かできることはありますか?

【回 答】
 発見した特許出願に対して特許成立することを阻止する目的で特許庁の審査に利用してもらうことを求めて先行技術文献などを提出できます。特許出願に対する情報提供になります。

<刊行物提出>
 特許出願で特許請求されている発明が、新規性、進歩性などの特許性を備えていないと思われる、等の事情について、特許庁に情報提供することができます(特許法施行規則第13条の2)。一般的に、特許出願で特許請求されている発明の新規性や進歩性などを否定する根拠になると思われる先行技術文献を提出する手続で「刊行物提出」と呼ばれます。
 特許庁によりますと、近年、刊行物提出件数は、年間7千件前後で推移し、刊行物提出を受けた案件の73%において、提出された文献等を拒絶理由通知中で引用文献等として利用しているとのことです。

<情報提供できる人>
 何人も刊行物提出できます。なお、特許庁へ提出する「刊行物提出書」における「提出者」の欄の「氏名又は名称」、「住所又は居所」に「省略」と記載することで、匿名で刊行物提出を行うことができます。

<情報提供の対象となる特許出願>
 特許庁に係属している特許出願に対して刊行物提出できます。特許庁の審査で拒絶査定が確定した等で特許庁に係属しなくなった特許出願に対しては刊行物提出できません。なお、対象の特許出願に審査請求が行われているかどうかに関係なく刊行物提出を行うことができます。
 刊行物提出は提出する刊行物を特許庁での審査に利用してもらう目的で行なうものです。そこで、J-Plat Patでの検索で、審査請求が行われているが審査請求後数カ月しか経過しておらず、まだ特許庁審査官が審査に着手していないと思われるような特許出願や、まだ審査請求が行われていない特許出願に対して刊行物提出を行うのが一般的です。

<提出することができる情報>
 対象出願で特許請求している発明(=「特許請求の範囲」の請求項に記載されている発明)が、新規性、進歩性欠如により特許を受けることができない旨の情報(特許出願前に頒布されていた刊行物、インターネットを通じて公衆に利用可能となった情報、等)を提出できます。
 特許出願の技術分野に関係している業界内で頒布されている雑誌などの刊行物は特許庁が収集している先行技術情報の中に含まれていないことがあります。そこで、J-Plat Patの検索で発見した先行技術文献(特許出願公開公報、等)だけでなく、雑誌や、業界紙・誌、発行日を確定できる宣伝・広告物なども刊行物提出で提出することがあります。

<提供された情報の取扱い>
 審査官は、提供された刊行物については、原則、その内容を確認し、審査において有効活用を図ることになっています。なお、特許出願の審査は職権探知主義になっていて、審査を受けている発明が拒絶理由を有するものであるかどうかは職権で調査すべき事項になります。
 そこで、刊行物提出が行われた場合に、提出された刊行物の記載によって審査している発明に対して新規性・進歩性欠如の拒絶理由があると認められた場合に審査官がその旨の拒絶理由を通知するのは当然ですが、刊行物提出が行われた場合であっても、審査している発明の新規性、進歩性を検討・判断するために必要な先行技術調査が通常の審査の場合と同様に行われます。
 そのため、刊行物提出で提出された刊行物で新規性欠如・進歩性欠如の拒絶理由を構成できない場合であっても、審査官が独自に行った先行技術調査の結果に基づいて新規性欠如、進歩性欠如の拒絶理由が通知されることがあります。

<特許出願人への通知>
 刊行物提出があった事実は特許出願人に通知されます。刊行物提出で特許庁に提出された刊行物は、特許庁から閲覧に供せられ、誰でもが閲覧申請を行うことで内容を知ることができます。特許出願人も刊行物提出があった旨の通知を特許庁から受けた後、閲覧申請を行って、提出された刊行物の内容を把握、確認できます。
 特許出願人が審査請求を行う前に刊行物提出が行われ、特許出願人がその内容を把握、確認して、「これでは、審査を受けても新規性、進歩性欠如と判断されて特許取得を望むことができない」と判断した場合には、期限(出願日から3年)までに審査請求を行わず、特許出願が取り下げ擬制によって消滅することもあり得ます。
 しかし、一般的には、提出された刊行物以外の情報についても調査、審査を行ってその結果が拒絶理由として特許庁から通知されるのを待つことになると思われます。

<情報提供者へのフィードバック>
 刊行物提出で提出した刊行物の利用状況については、提出者が希望することで特許庁からフィードバックを受けることができます。この場合は、刊行物等提出書にその旨を記載することになります。なお、これは利用状況を確認できるだけのものです。提出した刊行物を審査官が新規性・進歩性欠如の拒絶理由に利用し、その旨の拒絶理由を通知したことに対して特許出願人が拒絶理由解消の目的で提出した意見書・補正書の内容に関して何らかの意見申し立てを行うことはできません。あくまでも、審査に利用してもらう先行技術文献としての刊行物提出を行えるだけです。    
 現状では、J-Plat Patで「経過情報」を確認することで、提出した刊行物が拒絶理由に利用されたかどうかを簡単に確認できます。

■ニューストピックス■
●統一特許裁判所(UPC)準備委員会 UPC協定発効予定日の延期を公表
 統一特許裁判所(UPC)準備委員会は、12月5日付のニュースリリースで、UPC協定の発効予定日が先日公表されたロードマップから2カ月延期され、2023年6月1日となることを公表しました。これにより、サンライズ期間*1の開始予定日も3月1日に延期されます。
 また、欧州特許庁(EPO)は、12月6日付のニュースリリースで、欧州特許付与決定の発行遅延申請及び事前の単一効申請を含む経過措置 *2は、11月14日に公表したとおり、2023年1月1日より開始することを公表しました。
 欧州単一効特許(Unitary Patent:UP)は、欧州特許庁(EPO)が付与し、参加加盟国において一括して効力を持つ単一特許となります。欧州連合商標(EUTM)や登録共同体意匠(RCD)のように、単一の不可分な権利です。統一特許裁判所(UPC)は、参加加盟国において、新しい単一特許を含む欧州特許の訴訟を管轄する裁判所です。
*1 サンライズ期間
 サンライズ期間では、UPC協定発効までの3カ月間、オプトアウトの申請(UPC管轄から除外するための申請)をすることができます。
*2 経過措置の概要
(1)欧州特許付与決定の発行遅延申請
 EPC規則71(3)に基づく通知(特許査定予定通知)がEPOから発送された後、出願人が欧州特許付与の決定の発行を遅らせる申請をすることができるようにするものです。これにより、本移行期間開始後、欧州単一効特許制度発効前に付与される欧州特許についても、単一効による保護対象とすることが可能になります。
(2)事前の単一効申請
 EPC規則71(3)に基づく通知(特許査定予定通知)がEPOから発送された後、出願人は欧州単一効特許制度の開始前に、事前の単一効申請を行うことができます。欧州単一効の登録要件を満している場合は、制度開始と同時に単一効を登録することができます。
▼ニュースリリースはこちらをご覧ください
https://www.unified-patent-court.org/en/news/adjustment-timeline-start-sunrise-period-1-march-2023
https://www.epo.org/news-events/news/2022/20221206.html
https://www.jetro.go.jp/ext_images/_Ipnews/europe/2022/20221206.pdf
https://www.jetro.go.jp/ext_images/_Ipnews/europe/2022/20221114.pdf

第一三共 ADCめぐる特許紛争、米Seagen社が仲裁判断の取消を求め申立て
 第一三共株式会社(東京都中央区)は、11月11日付のプレスリリースで、抗体薬物複合体(ADC)をめぐる特許紛争について、Seagen社が米国ワシントン州西部地区連邦地方裁判所に仲裁判断の取消を求める申立てを提出したことを発表しました。
 今年8月に米国仲裁協会の仲裁廷は、ADC技術に関する特定の知的財産権が同社に帰属するとしたSeagen社の主張を全面的に否定する判断を下していました。
 第一三共は、「仲裁廷の判断は妥当であると考えており、Seagen社の申立てに対し、積極的に抗弁して参ります。」と明らかにしました。
▼プレスリリースはこちらをご覧ください。
https://www.daiichisankyo.co.jp/files/news/ir/pdf/20221111/20221111_Update_on_Arbitrators_Decision_J.pdf

小野薬品 スイス企業とがん免疫領域における抗体創製に関する契約を締結
 小野薬品工業株式会社(大阪市中央区)は、11月1日付のプレスリリースで、抗体創薬開発分野での革新的企業であるMemo Therapeutics AG(スイス・以下、「MTx社」)と、がん免疫領域における抗体医薬品を創製するための創薬提携契約を締結したことを発表しました。
 MTx社の抗体創製プラットフォームは、堅固で、シンプルかつ高速なマイクロ流体単一細胞クローニングおよびスクリーニング技術を用いて、これまでにないスピード、効率、感度での抗体レパトア探索および抗体創製を可能にするとしています。
 小野薬品工業は、本創薬提携から創製される抗体医薬品候補の知的財産および全世界で独占的に開発・商業化する権利を取得し、MTx社に対して、契約一時金、提携期間中の研究資金、臨床開発・販売の進捗に応じたマイルストン、売上高に応じたロイヤルティを支払うとしています。
▼プレスリリースはこちらをご覧ください。
https://www.ono-pharma.com/ja/news/20221101.html

明治「R-1」「LG21」全国的な知名度があるとして例外的に商標登録が認められる
 株式会社明治(東京都中央区)は、11月9日付のプレスリリースで、「明治プロビオヨーグルト」ブランドに使用している「R-1」と「LG21」について、文字商標として特許庁に登録されたことを発表しました。
 ローマ字の1字又は2字と数字を組み合わせた文字は、極めて簡単でありふれた文字のみからなる商標として、原則登録が認められません。しかし、商標が継続的に使用された結果、消費者がその商標を見たときに「誰の商品であるかを連想することができ、さらに消費者の間で全国的に認識されている商標」は、例外的に登録が認められることがあります。
 明治プロビオヨーグルト「R-1」と「LG21」は、特許庁の審査において「その商標の継続的使用により、消費者の間で明治の商品であることが全国的に認識されている」と判断され例外的に商標登録が認められたことになります。

・「R-1」 (標準文字商標):登録第6593375号(2022年7月28日登録)
・「LG21」(標準文字商標):登録第6593374号(2022年7月28日登録)

▼明治プロビオヨーグルト「R-1」・「LG21」

出典:明治プロビオヨーグルト「R-1」「LG21」-株式会社明治

▼プレスリリースはこちらをご覧ください。
https://www.meiji.co.jp/corporate/pressrelease/2022/1109_01/index.html

日米欧製薬3団体 令和5年度改定で共同声明「特許期間中の新薬は対象から除外を」
 日本製薬工業協会(JPMA)、米国研究製薬工業協会(PhRMA)、欧州製薬団体連合会(EFPIA)の3団体は11月22日、令和5年度の薬価中間年改定について、「特許期間中の新薬は中間年改定の対象から除外し、薬価を維持すべきである。」とする声明を発表しました。
 加えて、適用するルールについては、現行制度のもとでは、令和3年度と同様に「実勢価改定に連動しその影響を補正するもの」として適用されたルールに限定するべきであるとしています。
 令和6年度以降の薬価制度改革の議論においては、改めて、イノベーションの適切な評価および特許期間中の薬価が維持される仕組みとあわせて、現行の市場実勢価格に基づく改定について抜本的な見直しを行うべきであると主張しました。
▼日米欧製薬3団体の中間年改定に関する共同意見はこちらをご覧ください。
http://www.efpia.jp/link/221121_JPMA-PhRMA-EFPIA_Press_Release_Joint_statement_on_the_off-cycle_revision_JPN_FINAL_ver2.pdf

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発行元 エスキューブ株式会社/国際特許事務所
〒105-0001 東京都港区虎ノ門5丁目12番8号 クローバー神谷町601
Tel 03-6712-5985  Fax 03-6712-5986
Email info@s-cubecorp.com
Website  www.s-cubecorp.com
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