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第37回:ニュースで読み解く医薬品特許戦略(1)先発が訴えないなら後発が訴える―Wegovyをめぐる確認訴訟(米国)

先発対後発両サイドの特許戦略に必要不可欠な知識や最近の話題をお届けする「医薬品特許戦略ブログ」を配信します。製薬関連企業の皆様はもちろん、アカデミアや投資家の皆様にも参考にしていただけるような、実践的なポイントをお届けしたいと思います。

今回は、ニュースで読み解く医薬品特許戦略(1)先発が訴えないなら後発が訴える―Wegovyをめぐる確認訴訟(米国)

2026年9月23日、後発医薬品メーカーのMylan Pharmaceuticalsは、肥満症治療薬Wegovy(ウゴービ、一般名:セマグルチド)に関するNovo Nordiskの米国特許について、非侵害および無効の確認を求める訴訟を米国デラウェア州連邦地方裁判所に提起しました。米国では、後発品申請(ANDA:簡略新薬承認申請)において、オレンジブックに掲載された先発品の特許との関係について証明を行う必要があります。「先発品の特許は無効である、または後発品は当該特許を侵害しない」とするパラグラフIV証明を伴うANDAを行う場合、後発側は先発側にその旨を通知します。先発側が通知を受領してから45日以内に特許侵害訴訟を提起しなかった場合、一定の要件の下で、後発側から特許の無効または非侵害を求める確認訴訟を提起することができます。

何が起きたのか

今回問題となったのは、Novo Nordiskの米国特許第12,551,536号(以下「’536特許」)です。同特許は、Wegovyについてオレンジブックに掲載されています。Mylanは2026年6月17日、’536特許は無効である、またはMylanの後発品は同特許を侵害しないとするパラグラフIV通知をNovo Nordiskに送付しました。ただし、30か月停止の対象となるのは、原則としてANDA提出前にオレンジブックへ特許情報が提出されていた特許です。’536特許はMylanのANDA提出後に追加された特許であるため、本件では、Novo Nordiskが45日以内に提訴したとしても、’536特許を理由とする30か月停止は生じないと考えられます。 
Novo Nordiskは、’536特許について45日以内にMylanを提訴しませんでした。 
そこでMylanは、自ら確認訴訟を提起し、次の判断を裁判所に求めました。 
 ⚫︎ Mylanの後発品は’536特許を侵害しないこと  
 ⚫︎ ’536特許は新規性、非自明性または記載要件などを欠き、無効であること

なぜ後発企業が自分から訴えるのか

先発品の特許が存在する以上、後発品が承認を取得して発売を始めた後に、特許侵害訴訟を提起される可能性は残ります。パテントリンケージ上の障害をクリアしてFDAの承認を取得できても、発売後に販売差止めや損害賠償を求められるリスクが解消されるわけではないからです。 
Mylanの提訴は、発売判断に先立って特許上の不確実性を除去しようとする、後発側からの積極的な訴訟戦略といえるのです。

「Novo Nordiskが訴えなかった」の意味

両社の間では、Wegovyに関する他の特許を対象とする訴訟がすでに進行しています。今回Novo Nordiskが45日以内に訴えなかったのは、後からオレンジブックに追加された’536特許についてです。なお、Wegovyの注射剤については、現時点でオレンジブックに11件の特許が掲載されています。 
また、Novo Nordiskが’536特許について45日以内に提訴しなかった理由は、公表資料からは明らかではありません。この特許に対して訴訟提起しなかったことだけを根拠に、Novo Nordiskが特許の有効性や侵害成立に自信を持っていないなどと判断することはできません。

日本企業はどこに注目すべきか

日本では、後発品の製造販売承認前に、後発側が先発品の特許について非侵害などの確認を求めた事案において、確認の利益が無いとして、非侵害の判断がされなかった知財高裁判決があります(エリブリンメシル酸塩事件)。 
ただし、米国で先に承認された医薬品の場合、日本で後発品が参入する時期には、すでに米国で先発・後発間の特許係争が進行していることがあります。日本企業は、米国訴訟で争われた特許の有効性、クレーム解釈、非侵害の主張、証拠などを分析し、日本における戦略に活用することができます。

本件のようなニュースを読み解く土台となる、医薬品の承認・特許・市場参入の関係と、先発・後発双方の戦略については、拙著『医薬品特許戦略 Vol.1 総合編』でも体系的に解説しています。

参考資料

(執筆者:弁理士 田中康子) 
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