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医薬品特許戦略ブログ 第24回:先発対後発医薬品の特許係争最前線(2)プレガバリン

先発対後発両サイドの特許戦略に必要不可欠な知識や最近の話題をお届けする「医薬品特許戦略ブログ」を配信します。製薬関連企業の皆様はもちろん、アカデミアや投資家の皆様にも参考にしていただけるような、実践的なポイントをお届けしたいと思います。

今回は、先発対後発医薬品の特許係争最前線(2)プレガバリン

ブロックバスターのパテントクリフめがけて多数の後発メーカーが入り乱れた大型事件

1.事件の概要

無効審判・審決取消訴訟(令和2年(行ケ)10135)
 先発品(リリカ®カプセル)の再審査期間は2018年4月15日までであったが、その用途特許(特許3693258号、出願日1997年7月16日、延長5年)に対して再審査期間満了の1年3カ月程前(2017年1月16日)に、沢井製薬が無効審判を請求した。続いて、後発メーカー合計15社が次々とこの審判に参加した。2020年7月14日に無効審判の審決があり、特許権のうち後発品をカバーする部分について、実施可能要件及びサポート要件違反により特許無効と判断された。特許権者(先発メーカー)は審判請求人の沢井製薬と全ての参加人を被告として、知財高裁に審決取消訴訟を提起した。
 審決の直後の2020年8月17日には、後発品22社の80品目が承認を取得し、同年12月に薬価収載されると、先発メーカーは薬価収載したメーカーに対して侵害訴訟を提起した。この時審決取消訴訟は係属中であり、つまり無効審判は、無効の旨の審決が出ているものの事件は確定しない状態で後発品が承認され薬価収載(上市)されたことになる。
 その後、2022(R4)年3月7日に知財高裁でも無効審判の審決を維持する判決が出され、上告は受理されず特許無効のまま確定した。なお、この用途特許は2022年7月14日に特許期間が満了した。

侵害訴訟(令和4年(ネ)10012 他)
 2020年12月に後発品が薬価収載されると、先発メーカーは薬価収載した多数の後発メーカーに対して差止請求を求めて侵害訴訟を提起した。東京地裁では2021年11月24日から2022年2月28日にかけて合計16件の判決が出され、知財高裁では2022年6月30日から同年7月14日にかけて合計7件の判決が出された。いずれも原告の請求は棄却(非侵害、特許無効)された。その後先発側の上告は受理されず侵害訴訟事件は確定した。

2.注目ポイント  
 まず、無効審判への多数参加が係争に与えた影響について検討する。後発品は、先発品の再審査期間が経過した後速やかに申請を行うことを目標に開発を進め、再審査期間経過後に先発の特許権が存在する場合は、特許を潰すことを検討する。後発品の審査は約1年かかり、承認は2月と8月の年2回、薬価収載は6月と12月の2回である。2月に承認されると最短で同年6月に薬価が収載されることになる。
 リリカの再審査期間は2018年4月15日までであったから、後発品はこの後すぐ申請して翌2019年の8月承認、同12月の薬価収載を目指すのが最短で上市を目指すためのスケジュールになる。
 沢井製薬は、審査期間満了の1年3カ月程前の2017年1月16日に無効審判を請求した。承認予定日2019年8月には審決が出ていることを見越したものと思われる。しかし本件の無効審判には、15社が次々と参加したため、参加手続きがあるごとに無効審判の審理が度々中断したこともあり、審決が出たのは2020年7月14日であり、後発品の承認は同年8月であった。
 もし、無効審判への参加が無く、スムーズに審理が進んでいたら2019年の8月より前に無効審決が出され、後発品は2019年8月に承認されていた可能性もある。本件の無効審判への多数の参加は、無効審判請求人が審判を取下げて先発と交渉し、一社だけ先に後発品の承認を得る、いわゆる「ぬけがけ」を防止するためだと思われるが、これが逆に後発品全体の承認を遅らせる原因になったとしたら大いなる皮肉である。
 そして、パテントリンケージについて検討したい。上述のとおり、無効審判への多数参加により、無効審判の審決の時期が遅れたことは否めない。しかし結果的に先発の特許は無効と判断された。もし後発品審査時のパテントリンケージにおいて、特許(用途特許)の有効性が独自かつ的確に判断されていたら、無効審判の結論などあてにせず、申請の翌年2019年8月に後発品は承認されてしかるべきではなかったのか。あるいは、無効審判での判断を参考にするならば、審判の確定を待つべきではなかったのか。
 本件では、先発の用途特許は無効となったため、厚労省の承認後に後発品が侵害訴訟で差し止められ安定供給できないという事態は避けられた。しかし、もし無効審決が知財高裁で覆され有効と判断されていたら、厚労省が判断を誤ったために自ら医薬品が安定供給できなくなる事態を招いていたかもしれない。

3.Takeaway 
 本件は、当事者参加人は、審判請求人が審判を取り下げた後も、審判手続きを続行することができるという当事者参加(特許法148条第1項)を活用したケースである。ただし本件では、無効審判の当事者参加人は特許権者が提起した審決取消訴訟で全員が被告となった。これに懲りたのか、最近は無効審判に参加した後、先発の特許が潰れそうになると当事者参加人が参加申請を取り下げる場合もあるようだ。参加人がいなくなったのを見計らって審判請求人が特許権者とネゴシエーションして「審判請求取下げ⇒ぬけがけ」する可能性はゼロではないのだが。

(執筆者:田中康子)

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