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医薬品特許戦略ブログ 第27回:先発対後発医薬品の特許係争最前線(5)セレコキシブ➖第1章➖

先発対後発両サイドの特許戦略に必要不可欠な知識や最近の話題をお届けする「医薬品特許戦略ブログ」を配信します。製薬関連企業の皆様はもちろん、アカデミアや投資家の皆様にも参考にしていただけるような、実践的なポイントをお届けしたいと思います。

今回は、先発対後発医薬品の特許係争最前線(5)セレコキシブ-第1章-

1.事件の概要

特許権侵害差止請求事件
知財高判令和1年11月14日 平成30(行ケ)10110, 10112, 10115号
セレコックス特許を巡って先発対後発の特許係争(無効審判)が繰り広げられました。まずは「第1章」として、2019年(令和1年)の知財高裁判決を紹介します。特許庁では特許有効と判断されていましたが、知財高裁で一転したのです。
時は2016年、関節リウマチや各種の痛みの治療剤である先発品セレコックス®(有効成分:セレコキシブ)の再審査期間は2015年1月25日に満了していましたが、先発特許の存在により後発品は上市されていませんでした。
そんな中、2016年9月30日、国内の大手後発医薬品メーカーである東和薬品が、上記特許に対して無効審判を請求し、後発品メーカー5社が東和薬品側に参加したのが第1章の始まりです。

先発特許
特許3563036号「セレコキシブ組成物」
特許権者GDサール(現ファイザー)
2024年11月30日に存続期間満了

本件発明
特許3563036号 請求項1:
一つ以上の薬剤的に許容な賦形剤と密に混合させた10mg乃至1000mgの量の微粒子セレコキシブを含み,一つ以上の個別な固体の経口運搬可能な投与量単位を含む製薬組成物であって,粒子の最大長において,セレコキシブ粒子のD90が200μm未満である粒子サイズの分布を有する製薬組成物。

判決
特許庁の無効審判では、明確性要件、サポート要件と実施可能要件、新規性、及び進歩性の4つが争点とされましたが、審決では、本件特許はこれらすべてを充足するとして特許維持審決がされました。これに対して、審判請求人の東和薬品、参加人のニプロ及びヘキサールは、知財高裁に特許維持審決の取消を求めて提訴しました。
知財高裁では、サポート要件のみが争点とされ、本件発明は明細書でサポートされていないとして、特許庁の審決を覆し特許は無効であるとの判決が出されました。

2.注目ポイント

サポート要件に関する議論
日本では、サポート要件は特許法第36条第6項第1号で、「公開されていない発明について権利が発生することを避けるため、請求項に係る発明が発明の詳細な説明に記載した範囲を超えるものであってはならない。」と規定されています。
本件発明は、「セレコキシブ粒子のD90が200μm未満である粒子サイズの分布を有する」という数値範囲による特定を含みますが、知財高裁は、この様な数値限定発明について、特許請求の範囲の記載がサポート要件に適合するか否かは、当業者が、発明の詳細な説明の記載及び出願時の技術常識から、当該発明に含まれる数値範囲の全体にわたり当該発明の課題を解決することができると認識できるか否かを検討して判断すべきものと解するのが相当であると述べました。
その上で、本件明細書の発明の詳細な説明の記載及び本件優先日当時の技術常識から、当業者が、本件発明に含まれる「粒子の最大長において,セレコキシブ粒子のD90が200μm未満」の数値範囲の全体にわたり本件発明の課題(生物学的利用能が改善された固体の経口運搬可能なセレコキシブ粒子を含む製薬組成物を提供すること)を解決できると認識できるものと認められないから、本件発明は、サポート要件に適合するものと認めることはできないと判断しました。

3.Takeaway
最近の傾向として、サポート要件や実施可能要件といった記載要件違反のみに基づいて特許の無効が認められることが増えていますが、本件でもサポート要件だけを理由に特許が無効と判断されました。さらに本件では、数値限定発明のサポート要件の判断は特に厳しいということを改めて思い知らされます。

医薬品の分野において、サポート要件等の記載要件が特許無効・取消の決め手となるケースは、2016年には2件、2017年には4件でしたが、2018年以降は17件と、急激に増加しています。このうち、記載要件を満たすという結論になったケース、それぞれ1件、3件、12件、満たさないという結論になったのは1件、1件、5件でした。記載要件が特許無効・取消の決め手となった最近のケースとして、以下の判決が挙げられます。
平成31年5月29日判決 東京地裁平29(ワ)44053号
平成31年1月17日判決 東京地裁平29(ワ)16468号
平成30年9月4日判決 知財高裁平成29(行ケ)10172号
平成30年9月4日判決 知財高裁平成29(ネ)10105号

本判決を受けて、2020年2月に、セレコックスの最初のジェネリックが承認されました。・・・が、この事件はここで終わりません。この後先発メーカーが奮起します!第2章をお楽しみに。
 

(執筆者:田中康子)

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