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医薬品特許戦略ブログ 第30回:先発対後発医薬品の特許係争最前線(8)シタグリプチン-判決前

先発対後発両サイドの特許戦略に必要不可欠な知識や最近の話題をお届けする「医薬品特許戦略ブログ」を配信します。製薬関連企業の皆様はもちろん、アカデミアや投資家の皆様にも参考にしていただけるような、実践的なポイントをお届けしたいと思います。

今回は、先発対後発医薬品の特許係争最前線(8)シタグリプチンー判決前

1.侵害訴訟提起、仮処分申立

 先発品(ジャヌビア®錠12.5/25/50/100mg)は、シタグリプチンリン酸塩水和物を有効成分とする2型糖尿病治療薬であり、再審査期間は2017年10月15日まででした。先発企業は、シタグリプチンの塩に関する物質特許(特許3762407、出願日:2002年7月5日)を保有しており、14件の特許期間延長登録がされています。出願日から20年の特許期間は2022年7月5日までであり、延長期間は最長で5年であるため、延長後の特許満了日は最大で2027年7月5日 となります。

 したがって、後発品は2017年10月15日以降であれば薬事申請は可能ですが、特許満了前に承認を得ることはできないはずでした。しかしながら、2023年8月にサワイグループホールディングス子会社であるメディサ新薬の、シタグリプチンリン酸塩を含む後発品(シタグリプチン錠12.5/25/50/100mg「サワイ」)が承認されました(2026年2月5日現在薬価収載はされた事実は見つからない)。

 2023年10月26日に、先発企業であるMSD(Merck Sharp & Dohme LLC)は、沢井製薬およびメディサ新薬に対し、メディサ新薬によるシタグリプチン製剤の製造販売に関する特許侵害訴訟および仮処分申立てを、2023年10月6日に東京地方裁判所へ提起したと発表しました。

 先発の物質特許の有効期間中に後発品が承認された点や、その背景事情が業界の注目を集めていましたが、2026年2月3日、MSDのプレスリリースで「シタグリプチンに関する特許権侵害訴訟が当社の請求を沢井製薬らが全面的に認める形で終了」したことを発表しました。まだ判決文は公開されていませんので、具体的にどのように判断されたのかはわかりませんが、沢井製薬の後発品はMSDの特許を侵害すると判断されたことを示唆しています。


2.検討

 本件の争点を整理します。まず、先発品・後発品ともに、体内で治療効果を示す成分はシタグリプチンです。ただし、先発品の錠剤に含まれるのはシタグリプチンリン酸塩水和物であり、後発品はシタグリプチンリン酸塩であるため、水和物か無水物かという違いがあります。

 次に、先発特許は「式(I)(中略)…で表される化合物又はその製薬上許容される塩若しくは個々のジアステレオマー」と規定しており、この範囲にシタグリプチンリン酸塩が含まれること自体は争いがないと考えられます。しかし、後発品が承認を得た2023年8月時点では、先発特許の20年の特許期間は満了しており、延長期間に入っています。したがって、後発品が先発の特許権を侵害するか否かを検討するにあたり、シタグリプチンリン酸塩が延長登録された特許権の範囲に属するかどうかが問題となります。

 延長登録の根拠となった先発品はシタグリプチンリン酸塩水和物を含みますが、後発品側は、おそらく「先発特許にはシタグリプチンリン酸塩水和物は属さず、延長登録は無効である」との立場を前提に、仮に係争となっても特許期間は出願から20年の2022年7月5日に満了したと主張する意図で承認を取得した可能性があります。

 あるいは、ナルフラフィン塩酸塩事件の例から、延長登録自体は無効とならないことを理解した上で、「延長された特許権の範囲には延長の根拠となったシタグリプチンリン酸塩水和物のみが含まれ、後発品に含まれるシタグリプチンリン酸塩は含まれない」と判断した可能性も考えられます。ナルフラフィン塩酸塩事件と本件で後発メーカーが共通している点を踏まえると、後者の可能性が高いと推測されます。

 いずれにしても、延長された特許権の範囲について司法判断が示された事例はまだありません(オキサリプラチン事件では延長後の特許権の考え方が示されましたが、被疑侵害製品は延長前の特許権の範囲に属さないと判断されました)。
そのため、本件でどのような判断が下されるのか注目が集まっていましたが、2026年2月3日のプレスリリースにより延長された特許権の範囲に シタグリプチンリン酸塩 は含まれるという判断がされたようです。

 判決文が公開されましたら、改めて検討したいと思います。

(執筆者:田中康子)

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