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医薬品特許戦略ブログ 第23回:先発対後発医薬品の特許係争最前線(1)ロスバスタチン

先発対後発両サイドの特許戦略に必要不可欠な知識や最近の話題をお届けする「医薬品特許戦略ブログ」を配信します。製薬関連企業の皆様はもちろん、アカデミアや投資家の皆様にも参考にしていただけるような、実践的なポイントをお届けしたいと思います。

今回は、先発対後発医薬品の特許係争最前線(1)ロスバスタチン

先発の物質特許の無効化を図ったケースが知財高裁大合議事件に

1.事件の概要
無効審判・審決取消訴訟(平成28年(行ケ)10182、10184)

 先発品(クレストール®錠5mg、10mg)の再審査期間は2013年1月18日までであり、一方、先発の物質特許(特許2648897、出願日1992年5月28日、塩野義製薬)は、存続期間は5年延長され2017年5月28日まで有効であった。
 このような状況下、2014年2月4日にテバ製薬が、2015年3月31日に個人X(この当時、厳密
にはこの日までは何人も無効審判請求ができた)が、2016年3月9日に日本ケミファが、それぞれ無効審判を請求した。審理中に特許権者(塩野義製薬)側にアストラゼネカが補助参加し、個人X側に日本ケミファが補助参加した。訂正請求が認められた後、2015年6月19日、2016年7月5日、2016年11月7日にそれぞれ請求不成立(特許維持)審決が出された。その後知財高裁に控訴されたが、判決を前にして特許満了日2017年5月28日を迎えた。

 Xと日本ケミファの事件は併合され大合議事件に指定されて、特許権消滅後の訴えの利益の有無、進歩性の有無及びサポート要件違反について争われることになった。なお、テバの事件は判決が出ていないため取下げられたものと思われる。
 知財高裁は、特許庁の審決に対する取消の訴えの利益は、特許権消滅後であっても、損害賠償又は不当利得返還の請求が行われたり、刑事罰が科されたりする可能性が全くなくなったと認められる特段の事情がない限り、失われることはない、と判断した。その上で、進歩性とサポート要件はいずれも満たすとして、原告らの請求を棄却した。

2.注目ポイント

 本件は、再審査期間が切れた後に残っていた先発品の物質特許を無効審判で潰すことを試みた珍しい事例である。

 通常医薬品の物質特許、すなわち新規化合物に関する特許を無効にするのは容易ではないと考えられており、後発サイドもチャレンジするのを躊躇するからである。一方、先発の製剤特許、あるいは有効成分の結晶形に関する特許は無効審判請求されることが多い。また最近では後述するプレガバリンやアリピプラゾールの事例のように用途特許であっても無効審判を請求され、潰されることもある。後発品の市場が拡大して競争が激しくなり、後発メーカーはより早く市場に参入しようと試みていることが伺える。
 また本件は、知財高裁の12件目の大合議事件であったが、進歩性が争われた初めてのケースである。進歩性の判断において、知財高裁は、引用発明としての刊行物発明の認定について、当該刊行物の記載から抽出し得る具体的な技術的思想が必要であること、及び化合物が膨大な数の選択肢を有する一般式で記載された場合は、原則として、特定の選択肢に係る具体的な技術的思想を抽出できず刊行物発明の適格性は無いと判示した。

3.Takeaway

 先発にとっては「物質特許に対して無効審判はないだろう」という安心はもはやできないという学びがあったと思われる。しかし一方で、先発品の有効成分(つまり、後発品の有効成分でもある)を保護している物質特許は簡単にはつぶれない、という結論になった。とはいえ、明細書の記載(データ含む)をきっちりしておかないと、実施可能要件やサポート要件違反を理由に潰される可能性はあるだろう。勝って兜の緒を締めよ、というところか。

(執筆者:田中康子)

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