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先発対後発両サイドの特許戦略に必要不可欠な知識や最近の話題をお届けする「医薬品特許戦略ブログ」を配信します。製薬関連企業の皆様はもちろん、アカデミアや投資家の皆様にも参考にしていただけるような、実践的なポイントをお届けしたいと思います。
医薬品業界の特殊性から、医薬品の特許係争、特に先発対後発の競争に関連する制度があります。いずれも薬事承認と関連するため、医薬品開発の現場を知らないとわかりにくい点が多々ありますが、
医薬品の特許係争を考える際にはこれらを十分に理解しなければなりません。
今回は、医薬品の特許係争に関連する制度として、(1)特許期間延長制度、(2)再審査制度・再審査期間(データ保護)、(3)パテントリンケージ、(4)虫食い申請、そして(5)試験研究の例外規定の5つを一気にご紹介します。
特許期間は原則として出願から20年である(特許法67条第1項)。医療用医薬品は、製造販売するために厚労省による許認可(製造販売承認)が必要であり、そのためには、臨床試験を行って医薬品の有効性や安全性を確認し、その結果を添えて製造販売の申請をしなければならない。すなわち、臨床試験の開始から承認を得るまでは、たとえ特許権を有していても、特許発明の実施をすることができない。このような状況に鑑み、「医薬品等の一部の分野では、安全性の確保等のための政府の法規制に基づく許認可を得るためのデータ収集とその審査に相当の長期間を要するところ、その間はたとえ特許権が存続していても権利の専有による利益を享受しえず、その期間に相当する分だけいわば特許期間が侵食され、本来享受できるはずの特許期間を享受し得ないという事態を解消するため。」という立法趣旨の下、1987年に特許期間延長制度(特許法67条第4項、PTE=Patent Term Extension)が導入された。
なお、特許庁の審査にかかった期間を補填する目的で特許期間を調整する特許期間調整(特許法67条第2項、PTA=Patent Term Adjustment)は、分野を問わず適用される。
このように、特許期間延長は薬事承認とリンクしている。日本では、ある医薬品に関する最初の承認に基づいて、特許期間延長することができる他、二度目以降の承認(適応拡大、剤形追加、用法用量変更)に基づく場合も特許期間延長が可能である。
特許期間を延長するためには、特許権者が特許庁に、薬事承認から3か月以内、かつ特許権の存続期間の満了の前日までに、延長登録出願を行う必要がある(特許法67条の5)。延長登録出願がされると、出願が登録要件を満たすものか否か、特許庁で審査される。代表的な登録要件(拒絶理由)は、特許法第67条の7第1項第1号の「その特許発明の実施に第六十七条第四項の政令で定める処分を受けることが必要であつたとは認められないとき。」である。なお、延長登録の出願があったときは、拒絶査定が確定するか、延長登録があるまでは、存続期間は延長されたものとみなされる(特許法67条の2第5項)。
登録要件こそ違え、通常の特許出願と同様に審査手続きは進められるので、登録要件を満たさない場合、つまり拒絶理由がある場合は拒絶理由通知がされ、なお登録要件を具備しない場合は拒絶査定となる。拒絶査定に対して不服があれば、拒絶査定不服審判を請求可能であり、審判の結果(審決)に不服があれば知財高裁、最高裁へ上訴の道があるのも通常の審査の場合と同様である。
これまで、延長登録出願の拒絶査定に対する審判が上訴されて最高裁が判決を出したケースは2件ある(塩酸モルヒネ事件、ベバシズマブ事件)。これら2つの判決により、延長登録出願の審査基準が2度にわたって改訂された。
特許権の存続期間が延長された場合の当該特許権の効力は、その延長登録の理由となった第67条第2項の政令で定める処分の対象となった物(その処分においてその物の使用される特定の用途が定められている場合にあっては、当該用途に使用されるその物)についての当該特許発明の実施以外の行為には及ばない。1987年に制度が導入された当初、「処分の対象となった物」は承認された医薬品の「有効成分」と、「用途」は「効能効果」と解釈されていた。しかし、上述の2つの最高裁判決を契機に、この解釈が変化して不明確になっている。
このような状況下、延長された特許権の効力について、特許庁の判定制度の利用を試みたケース(判定2014-600020、判定2014-600007、判定2014-600018、判定2014-600008、判定2014-600019)がある。特許庁に助けを求めたとも解釈できるが、残念ながら特許庁は「特許法68条の2の規定による特許権の効力が及ぶ範囲について、特許庁に判定を求めることができる旨の規定は特許法に存在しないから、特許法68条の2の規定による本件特許権の効力が及ぶ範囲について、請求人は、特許庁に対して判定を求めることはできない。」として、判断しなかった。
延長された特許権の効力の解釈を明確化するような法改正の兆しもないので、審決・判決の蓄積に期待しているところであるが、現時点で解釈の指針としうる判決は1件(オキサリプラチン事件、平成28年(ネ)第10046号)のみである。ただし本判決では、被告製品はそもそも元の特許権の範囲に属しないという結論となり、解釈の指針は示したがそれに基づく判断はされなかった。逆に、例えば、マキサカルシトール事件(平成28年(受)1242)のように、あえて論点の多い延長された特許権の効力に踏み込まずに早期の解決を図った事案がある。
再審査制度とは、新薬について、承認後一定期間が経過した後に、企業が実際に医療機関で使用されたデータを集め、承認された効能効果、安全性について再度確認する制度をいう(薬機法第14条の4)。
再審査の期間は、新薬(新有効成分医薬品)では8年であり、その他医薬品の種類により通常4年~10年の期間が設けられる。再審査期間中は後発品の申請をすることができない。すなわち新薬は、特許だけでなく再審査期間によっても保護されているといえる。尚、再審査期間は、海外ではデータ保護期間として定められており、期間の長さは国により異なる。例えば米国では、低分子医薬品5年、バイオ医薬品は12年であり、欧州では8年とされている。再審査期間は短縮することはできないので、後発品は、先発品の再審査期間が経過した後速やかに申請を行うことを目標に開発を進め、再審査期間経過後に先発の特許権が存在する場合は、特許無効審判等により特許を潰すことを検討する。
なお、便宜上「(2)再審査制度・再審査期間(データ保護)」と記載したが、日本の再審査制度は、TRIPS協定(第39条(3))等により定められている、医薬品のデータ保護とは異なる。日本にデータ保護制度に関する規定がないことについては、2024/3/21付医薬系特許的ブログ[i]で指摘されている。
パテントリンケージとは、一般に、後発医薬品の審査において、申請された後発医薬品と先発医薬品特許との関係を確認することをいう。日本にはパテントリンケージについて定めた法律や規則は無く、ジェネリック医薬品(低分子医薬品の後発品)については、厚労省の課長通知(厚労省の平成21年6月5日付通知(通称「二課長通知」) 、及び平成21年1月15日付通知 )に基づいて、後発品の審査時及び承認後薬価収載前の2段階での運用がされている。
第1段階は二課長通知に基づくものであり、PMDAと後発医薬品申請者との間で、先発特許への抵触有無、並びに先発特許の有効性について確認が行われる。この際、確認対象は、先発品が薬事当局に提出した物質及び用途に関する特許であり、特許庁・裁判所などの専門官庁の関与無しにブラックボックスの中で、PMDAが判断する。
第2段階はは平成21年1月15日付通知に基づくものであり、薬価収載前に当事者間で調整(事前調整)を行い、安定供給に問題がない品目のみ薬価収載の手続きをとること、とされており、物質や用途特許以外の特許も対象となる。
以上より、物質及び用途特許に関しては、第1段階と第2段階を、他の特許に関しては、第2段階をクリアしなければ後発品は上市できないので、理論上後発品上市後に侵害訴訟は起きないはずである。しかし実際には、承認後または薬価収載後に侵害訴訟が起きて後発品が差止められた例もある。例えば、マキサカルシトール事件(平成28年(受)1242)では、原薬の製法に関する特許を侵害するとして、後発品が差し止められているし、ナルフラフィン事件では用途特許を、テリパラチド事件では製剤の製法特許を、そしてダサチニブ事件では物質特許を侵害するとして、後発品が差し止められた。
後発医薬品の効能・効果、用法・用量は、原則として先発医薬品と同一でなければならないが、一部の効能・効果、用法・用量について、先発医薬品の再審査期間や特許期間が残っている場合は、その部分については先発医薬品と同一でなくてもよい。これが通称「虫食い申請」と呼ばれており、前出の厚労省の平成21年6月5日付け通知がその根拠とされている。
後発品は虫食い申請をうまく活用して、先発品のうち特許が切れた部分から先行して承認を取得しより早く市場参入している。特筆すべきは、先に特許が切れた効能等で承認を取得し薬価収載されると、その後特許が切れた効能等で承認を取得した際にはすでに薬価が収載されているのですぐに販売することができることである。さらに最初に一部の効能についてのみ承認を取得していたとしても、医療現場において医師は承認を取得していない他の効能についても処方することが可能である(通称:オフラベルユース)。このような背景から「虫食い申請」は、より広義な先発対後発医薬品の特許係争といってよいだろう。
試験研究の例外とは、「特許権の効力は、試験又は研究のためにする特許発明の実施には、及ばない(特許法69条第1項)」という規定のことを示し、特許権が存在する技術であっても、試験研究のための利用なら特許侵害にならないことをいう。試験研究の例外は、技術分野を問わず適用されるが、医薬品分野では、特に、後発医薬品の申請用の試験(同等性試験等)のために、第三者の特許権の範囲に含まれる有効成分等を製造し試験することは特許法69条1項の「試験又は研究」に該当する旨が、1990(平成11)年4月16日の最高裁判決(メシル酸カモスタット事件、最判小二平10年(受)153号)で確認されている。また、新薬の臨床試験(治験)の場合も特許法69条1項の「試験又は研究」に該当することが、2021(令和3)年2月9日の知財高裁判決(T-VEC事件、令和2年(ネ)第10051号)で確認されている。
よって、先発品も後発品も、第三者の特許期間中に臨床試験や同等性試験を行っても特許権侵害を構成しない。現在、試験研究の例外規定が係争で問題となることはないが、臨床試験や同等試験開始時期を検討する際、誰もが考慮している制度である。
[i] 韓国薬事法改正 医薬品の再審査制度を廃止し、イノベーティブ医薬品創出を促進する臨床試験資料保護制度(データ保護制度)新設へ 後れを取る日本 https://www.tokkyoteki.com/2024/03/south-korea-regulatory-data-protection.html (as of September 22, 2024)
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